動画視聴で9割が接触事故の再発会費
地域の高齢者の移動を変える安全運転
接触事故が減らずに、スタッフの心理的負担や修理費用の経済的負担が大きいデイサービスは少なくないようだ。
利用者や家族も不安だ。同様の悩みを抱えていた社会福祉連携推進法人 日の出医療福祉グループは、有限会社ネイキッドコーポレーションのeラーニング動画教材 「クルマの運転通信教育」を導入。1年が経ち、受講者の事故は約9割減少。秘訣は、慣れや勘ではなく、運転技術の理論を理解する方法だった。
接触事故が減らず経済・精神的負担增
介護・保育・医療・障害福祉等の共同事業体、社会福祉連携推進法人 日の出医療福祉グループは、2024年度現在、166ヵ所の事業所が所属している。
なかでも利用者の送迎が必要な事業所では、送迎時の事故が減らないことに悩んでいた。
「さまざまな策を講じても効果があまりなく、苦労していました」と、同グループ 高齢者事業本部 稲美エリアエリア長補佐の石原和明さん。
送迎運転をするのは、多くが運転のプロではない介護スタッフ1人で運転と介助をする、いわゆるワンオペも多い。
「私生活で車を運転していても、仕事で利用者さんを乗せることにプレッシャーを感じるスタッフは少なくありません。
車の側面を少しこするような軽微な事故でも、事故を起こしてしまったという心理的負担は大きく、離職の要因にもなり得ます。
また、入職の時も、車での送迎がいハードルになっています」(石原さん)。
事故を起こした車両を修理に出すと、軽微な傷で1ヵ所5~6万円程度、積み重なると、年間100~200万円という修理費用がかかるという。
「経済的にも大きな損失です」と石原さん。
修理中に代車を使う場合も、慣れた車ではないためスタッフは運転しにくく、利用者も不安を感じたり、認知症状がある人は見たことのない車が来て不安に思う人もいるという。
介護する家族も心配だ。
日の出医療福祉グループがこれらの課題の打開策として導入したのが、eラーニング動画教材「クルマの運転通信教育」。
提供する有限会社ネイキッドコーポレーションの山下裕隆さんによると、車の事故は、「日本損害保険協会の調査で、約3割が駐車場内で発生しています。
介護事業者ですと、送迎時に家の塀にぶつけたりすることが多いです。
特に車の左側面と後ろをぶつけることが多く、この部分は、利用者さんが乗り降りする所です」。
車は動くのにドアが開かず送迎には使えない。
修理費用もかさみ、利用者、家族、スタッフの精神的負担も大きい。
甚大な被害だ。
日の出医療福祉グループも、同教材を導入するまでただ手をこまねいていたわけではない。
①対象の全事業所でマニュアルを作成し、乗車前後と乗車中のそれぞれで注意すべき点を記載。
②送迎で使う全車両にAIドライブレコーダーを設置。
よそ見運転や携帯電話を触ろうとする動き、車に衝撃があった場合等にセンサーが感知して警告音が鳴り、さらに事業所管理者や法人本部にもメールが配信される。
③全事業所で運転や送迎時の介助方法を指導するOJTの実施等だ。
事業所では事故を減らす情報を探してスタッフに伝えたり、努力をしてきたが、大幅な効果は得られなかった。
「マニュアルだけでは車の運転技術向上には直結せず、OJTでは多くの人が車の運転を感覚的に覚えているので、上達方法の教え方が分からず困っていました。
これまで私が勤めてきたすべての介護施設でも、運転は「慣れ」というスタンスでした」と、石原さん。
行き詰った時に出会ったのが、同動画教材。
特長は、車の運転を理論で学ぶことだ。
『慣れ』より『理論」で運転技術向上
個人向けの運転技術講習をしていた山下さんは、父親が倒れたのをきっかけに介護施設への訪問が増えた。
気づいたのが、どの施設でも送迎車両が傷ついたり凹んだりしていること。
顧客の中でも、介護施設に就職したいが送迎が不安との声があった。
そこで、介護事業者向けにeラーニング動画教材を開発。
2019年から販売を開始した。
山下さんは、運転に慣れても接触事故が減らない理由について、「多くの方が運転技術を学ぶ自動車教習所では、所内のコースに設置されたポールを見て、「何本目のボールでハンドルを切る」というように、目視で車を動かしています。
介護施設の送迎で使うワンボックスカーは窓の位置が高く、目視では見えない所があります。
目視を中心に習っていること、そして車の仕組みを理解していないことが、接触事故を起こす大きな理由です」と、解説。
では、どうすれば接触事故は減らせるのだろうか。
運転操作と見る場所がキーポイントになります。
運転知識がない人は、どこがぶつかるか分からず、キョロキョロいろんなところを見ますが、通常、ぶつかる所は1ヵ所。
多くて2ヵ所ですね。
どの時点でどこがぶつかるか分からないから、見るべきところを見ずに車を動かして、ぶつけてしまいます。
動画の中では、いつ、どこを見るか、車の角度等から理論的にお話しています」という山下さんは、運転の難易度と車の大きさは関係がないとも話す。
視点を面ではなく点で捉えることが大切です。
面で見ようとすると大型車ほど視野を広くする必要がありますが、点で見れば車の大きさは不問です
(山下さん)。
仕組みを理解し、理論で運転を学ぶ同教材 例えば車庫入れでは、全ての車は後輪を中心にコンパスの様にして回るという仕組みが分かれば、ハンドルを大きく切って大回りしなくてもぶつけずに車庫に入れられるというような要領だ。
動画は8つのセクション (図)に分けて合計60本ほどを配信している。
外国人介護人材の増加にも対応できるよう、外国語の字幕をつけた動画も作成。
サブスクリプション方式で配信され、車1台あたり月額1,000~2,000円。
別料金で企業専用動画も作れる。
「安心」がもたらす移動の選択肢の拡大
導入前は動画視聴で運転技術が向上することに半信半疑の事業所が多いというが、実際に視聴すると「動画で示されているポイントを意識して運転すると本当に接触せず、ギリギリまで幅寄せできるようになりました」と、石原さん。
2023年12月、同グループ 高齢者事業部 荻野亨本部長がかねてからの課題の解決策として導入を即決し、まずは2023年度に事故を起こしたことがあるスタッフのみを対象に●その後、視聴者の約90%が事故を起こしていない(2025年2月時点)。
この結果を受け、2025年度からは対象事業所の全スタッフが視聴できるようにするという。
セクションごとに数の動画が収納され、取材時の動画本数は、約60本、入社時に学ぶ要約動画(約60分)、接触事故が起こりやすい幅寄せ、車庫入れ、縦列駐車の講習を始めとして、運転知識編では「人間の視界を知ると事故を未然に防げる」「事故を起こさないために必ず習慣化すること」。
雑学編では「法律・条例など知らなかったでは済まされない話」「ゲリラ豪雨で冠水!どの程度なら走れる?」管理者編では「はじめて運転させる前に必ず行うレッスンについて」等、運転技術についてだけでなく、事業所の管理者に特化したメニューもある。
また、同動画教材を導入した東証プライム上場の介護サービス事業者へのアンケート調査では、約76%が「動画視聴で運転が変わった」、95%が「車を接触するリスクが減る」、約98%が「経費削減になる」と回答している。
今後はデイサービスの送迎車両を他サービスに活用する動きも出てくるだろう。
「労働者人口が減り高齢者が増えていくなかで、事業所や法人を飛び越えて送迎業務を一括化する流れは必要だと思います。
また、タクシーやバスの公共交通も人手不足になるなかで、介護事業所としては、買い物難民になる高齢者への移動支援等も視野に入れていく必要があると思います。
その前提となるのが安全な運転です」と、石原さん。
運転技術の向上が、デイサービスの送迎だけでなく、地域の移動をも変える可能性が見えてきた
eラーニング動画教材 「クルマの運転通信教育」
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